根津美術館の開館75周年の記念特別展として開催される本展、屏風があるため作品は47件ですが、応挙の作品に溢れた展示室は圧巻です。
応挙と写生が結びついたのは、「雨月物語」の作者の上田秋成が、1808年に応挙と写生を関連づける一文を書くなど、かなり古くから。分かりやすい事もあって、応挙=写生という図式が定着しましたが、それほど単純ではない事が解説されていきます。
まずは、入口付近で目をひく《牡丹孔雀図》から。応挙による花鳥画の典型であり、濃密な表現は、裏彩色(絵絹の裏から色を塗る技法)を用いるなど、綿密に計算したうえで、高度なテクニックを駆使して描かれたものです。
会場入口から、第1章「応挙画の精華」続いて登場する3つ並んだ屏風は圧巻。手前から重要文化財《雨竹風竹図屏風》、《藤花図屏風》、国宝《雪松図屏風》です。ベンチに座ると、屏風に囲まれる至福のひと時をお楽しみいただけます。
重要文化財《雨竹風竹図屏風》は右隻で雨、左隻で風を表現。雨が滴る葉は下向きに、風がそよぐ竹は僅かに揺らぎます。墨の濃淡による空間表現も見事です。
《藤花図屏風》は、根津美術館ではお馴染み。琳派風の装飾性豊かな作品ですが、実は近くで見ると花の描写はかなり立体的で、力強さも感じます。
そして、国宝《雪松図屏風》も登場。所蔵する三井記念美術館で正月明けに展示されるのが定番で、根津美術館で見るとまた違った趣が感じられます。豪商・三井家が注文して描かせた、なんとも豪華な逸品です。
屏風の数々応挙の「写生」について詳しく解説されているのは、隣の展示室。応挙による写生図が出品されていますが、実はモチーフをそのまま写したものだけでなく、写生図を整理して写し直したものや、他の写生図の模写も含まれているのです。
応挙が写生を重視した事は確かですが、写生のみに拘っていたわけではありません。むしろ見たものをそのまま描くだけでは限界がある事も応挙は分かっていたようで、実際の作品には抽象的な表現まで見ることもできます。
怜悧な観察眼をもちながらも、柔軟な発想も持ち合わせていた事こそが応挙の本質であり、それが円山派の隆盛にも繋がっていったのです。
第2章「学習と写生の微」特別展という事もあって、会場は2階にも続きます。展示室5では《七難七福図巻》が展示されています。
応挙36歳の作品で、仁王教で説かれる七難と七福がテーマ。上巻「天災巻」では天災と禽獣による害が、中巻「人災巻」は人による災い、下巻「福寿巻」にはさまざまな福が描かれています。
かなり残酷なシーンも描かれていますが、これを避けるためには信仰を、という意図なので、応挙の画力はまさにうってつけ。若き日の応挙が3年をかけて制作した力作です。
七難七福図巻の世界展覧会は前後期で多くの作品が入れ替わります(絵巻は場面替え)。国宝《雪松図屏風》は11月27日までの展示ですが、後期には代わって重要文化財《雲龍図屏風》が登場。躍動感あふれる二匹の龍を生々しく描いた、こちらも逸品です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年11月1日 ]■円山応挙 「写生」を超えて に関するツイート