スイスで生まれたジャコメッティ。父も画家で、幼い頃からデッサンを始めています。
20代でパリに出た初期には、モデルと向き合う制作ではなく、記憶に基づいた制作に没頭。キュビスム、アフリカやオセアニアなどプリミティブな造形、そしてシュルレアリスムなどに感化された作品を手掛けています。
父の死を境に「見ること」に回帰。以後、「見えるものを見えるままに」表現する事に挑み続ける事となります。
1章「初期・キュビスム・シュルレアリスム」展覧会は細かく章が分かれており、全16章構成。基本的には時系列で並んでいます。
世界3大ジャコメッティ・コレクションのひとつであるマーグ財団美術館の所蔵品が数多く出展されている本展ですが、一方で国内所蔵の作品も多数。ジャコメッティは日本人哲学者の矢内原伊作(1918-1989)と親交が深く、早くから日本で紹介されていた事もあり、国内にも多数のジャコメッティ作品があるのです。ジャコメッティのモデルもつとめた矢内原については、8章で紹介されています。
ジャコメッティのモデルはほとんどが人間ですが、例外的に作られた《猫》と《犬》も展示。その造形は、やはりジャコメッティならでは、です。
2章~12章展覧会の見せ場は後半です。13章は「ヴェネツィアの女」、1956年のヴェネツィア・ビエンナーレを機に制作された女性立像のシリーズです。いずれも100センチをやや上回る大きさで、胴と腕が一体化したものや、肉付けが比較的きちんと施されているものなど、一体一体は微妙に異なります。9体が三角状に並べられたさまは、宗教的な荘厳さも感じさせます。
14章は「チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト」。ニューヨークに建設される銀行の広場のためのモニュメントで、「歩く男」「女性立像」「大きな頭部」の3点を設置する構想でした。プロジェクトは実現しませんでしたが、最終的な大きさで制作された彫像がここで展示されています。なお、この3点に限り来館者も撮影が可能です。
13章「ヴェネツィアの女」、14章「チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト」母国スイスでも人気が高く、100スイスフラン紙幣にはその肖像が描かれているほど(ちなみに10フランはル・コルビュジエ、50フランのゾフィー・トイバー=アルプも画家と、スイスの紙幣は芸術家率が高いです)。日本で開催されるジャコメッティ展としては2006年に神奈川県立近代美術館などで開催された「アルベルト・ジャコメッティ展」以来、11年ぶりです。東京展の後、豊田市美術館に巡回します(10月14日~12月24日)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年6月13日 ]■ジャコメッティ に関するツイート