このコーナーでも何度かご紹介しているMOA美術館。都心からはやや離れていますが、名品を揃えた質の高いコレクションは「わざわざ足を運ぶのに相応しい」美術館として、ファンには良く知られています。
今回は約1年をかけて、施設の各所を改修。デザインを担当したのは、杉本博司さんと建築家の榊田倫之さんが主宰する建築設計事務所「新素材研究所」です。
メインエントランスの巨大なドア(高さ4m)は、人間国宝の室瀬和美さんによる漆塗。相模湾が見渡せる開放的なロビーエリアを進むと、6つの展示室が始まります。
以前は大空間だった展示室1は、黒漆喰の間仕切壁で分割されました。向かい合った展示ケースが映りこまなくなったため、驚くほどの見やすさ。低反射高透過ガラスの効果もあり、ガラスをほとんど意識させません。
正面玄関~メインロビー~展示室1展示室2には国宝《色絵藤花文茶壺》の部屋を新設。ここも壁面は黒漆喰の仕上げで、鮮やかな藤花を360度まわってお楽しみいただけます。
国宝《紅白梅図屏風》は、その奥。展示場所こそリニューアル前と同じですが、樹齢数百年の行者杉を使った框が配されるなど、日本の伝統的な素材が用いられた事で、趣のある空間となりました。
印象に残ったのは、バランスが取れた照明計画。展示品が美しく見られる事はもちろんですが、過度な演出が施されていないため、自然に作品と向き合えます。ゆっくりと美術品を見て回るに相応しい、見事な環境です。
展示室2~3階段を下ると、展示室4~6。階段室もスリット状の格子から柔らかな光を取り入れるなど、ディテールにも細かな配慮が見られます。
リニューアル記念展では、創立者・岡田茂吉のコレクションの中から厳選した日本・中国美術の名品を紹介。同時開催の杉本博司「海景̶ ATAMI」では、京都三十三間堂の千手観音の撮影を元に制作された映像作品《加速する仏》や、熱海の海を撮影した「海景」作品が紹介されています。展示室の最後には、2015年に展示された杉本博司さんの《月下紅白梅図》も再び展示されています。
展示室4~6、「創立者の部屋」「リニューアルした」とご案内するのが憚られるほど、全く新しい装いになったMOA美術館。ここではご紹介できませんでしたが、ミュージアムショップやレストラン・カフェも一新されています。上質なひと時を過ごせる事を、保障いたします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年2月8日 ]■MOA美術館 に関するツイート