18世紀半ばに開設された、キュー王立植物園。現在では毎年135万人もの人が訪れる国際的な観光名所です。
展覧会は、英国のボタニカル・アートの流れを総覧するもの。第1章は「植物への夢と憧れ」です。
自然に対する研究はルネサンス時代に始まりましたが、本格的に植物図譜が作られるようになったのは17世紀頃。『アイヒシュテット庭園植物誌』は出版された植物図集としては最古のもので、大型の図集に銅版画で描かれた植物が目をひきます。
18世紀になると植物の研究はさらに発展、多くの優れた植物画家が活躍しました。中でも医師のロバート・ジョン・ソーントンが編集した植物図譜「フローラの神殿」は逸品。一流の画家を起用し、愛好家は「史上最美の一冊」と称賛します。
第1章「植物への夢と憧れ」第2章は「世界の草花を求めて」。イングリッシュ・ガーデンで使われる植物の多くは、大航海時代以来、その美しさに魅せられたヨーロッパの人々が集めたものです。
キャプテン・クックに同行したのが、植物学者のジョセフ・バンクス。昨年のこの時期にBunkamura ザ・ミュージアムで開催された「
キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」でも紹介されていました。バンクスは1773年に、同園の事実上の園長に抜擢されています。
科学技術が進歩すると、園芸分野にも大きな変化が訪れます。板ガラスを用いて大型の温室を作ったのが、ジョセフ・パクストン。パクストンは温室設計のノウハウを活かし、1851年のロンドン万博では大規模なプレハブ建築も設計し、会期後は歴史的な建造物「水晶宮(クリスタル・パレス)」になりました。
第2章「世界の草花を求めて」第3章は「花に魅せられたデザイナーたち」。植物から着想したデザインが紹介されます。
「最初の産業デザイナー」ともいわれる、クリストファー・ドレッサー。デザイン学校の副科で植物学を学び、ガラス器・家具・テキスタイルなどに、植物をヒントにした独自のモチーフを使いました。
大量生産される工業製品の品質に警鐘を鳴らしたウイリアム・モリスは、手仕事を見直すアーツ・アンド・クラフツ運動を主導。美しい植物模様のテキスタイルは、今なお高い人気を誇っています。
第3章「花に魅せられたデザイナーたち」写真が発達した現在でも、記録という意味ではなくなったものの、ボタニカル・アートは描かれています。自然の植物は必ずしも写真家が求める姿・かたちになっていませんが、訓練を積んだ植物画家はその「種」の代表的な姿を表現できる、という利点も見逃せません。
展覧会の最後は、キューの最古の温室植物である「エンケファラルトス・アツテンステイニイ」(絵は2000年頃)。1775年に南アフリカで採取されたものですが、今までに実をつけたのは1819年の1度だけ。幸いにもジョセフ・バンクスは、死の前年に見る事ができたそうです。
第4章「エピローグ」展示室に建物と庭園が入ったようなユニークな会場デザインは、著名な設計事務所であるクライン・ダイサム・アーキテクツが担当。庭にちなんだ日(1/28、2/8、2/28、3/3、3/8)には、来館者全員に特製ぬりえもプレゼントされます。
広島からはじまった全国巡回展で、
パナソニック 汐留ミュージアムは8館目。次の京都展(
京都文化博物館:4/29~6/26)が最終会場となります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年1月20日 ]