横浜美術館で開催されている蔡國強展。まず美術館1階のグランドギャラリー(エントランス)に、本展のため横浜で制作された新作《夜桜》が展示されています(
制作の模様はこちらです)。
かがり火を挟んで巨大な桜が咲き、上方には睨みを利かせるミミズク。一気に開花して儚く散っていく桜は、火薬との共通点が見受けられます。
サイズは縦8m×横24mで、蔡の火薬ドローイング作品としては最大級。高知で漉かれた大型の和紙は、近くで見るとかなり分厚い事も分かります。この作品のみ撮影可能です(自撮り棒は使用できません)
《夜桜》二階に進むと、最初の展示室には《人生四季:春、夏、秋、冬》。浮世絵師・月岡雪鼎の肉筆春画《四季画巻》から着想した作品で、性的な表現が含まれます(それほど強烈ではありません)。
絡み合う二人は、中性的な面持ち。身体には花札の絵柄、背景にも季節感を表す花鳥が描かれています。季節が繰り返されるように、命も巡っていくさまを表しています。
この作品は、カンヴァスが支持体。鮮やかな色彩を用いた火薬絵画は、蔡にとって新たな試みとなります。
《人生四季:春、夏、秋、冬》中国・泉州市に生まれた蔡。泉州市の徳化窯は中国有数の白磁の産地で、この地で生まれた磁器は古くから欧米でも珍重されていました。
白磁の職人との協業で生まれた作品が《春夏秋冬》です。4枚のパネルはそれぞれ60枚の白磁板で構成され、薄い磁土を重ねる伝統的な技法で、四季の花と情景が作られています。
その白磁のレリーフに、蔡は火薬を撒いて爆発。戦災後にも思える痛々しい様相ですが、暴力に立ち向かうように自然の姿が残っています。
《春夏秋冬》同じ展示室の《朝顔》は、横浜美術大学の学生との協働制作です。
学生がテラコッタで花と葉を制作。その上に火薬を撒いて爆発させ、複雑な陰影が付けられています。花と葉は、天井から吊るされた自然の藤蔓に取り付けられ、まるで天から植物が下りてきたかのように見えます。
《朝顔》展覧会のメインビジュアルになっている話題作が《壁撞き》。2006年にドイツで行われた個展で発表され、日本での公開は初めてとなります。
等身大の99匹の狼が群れを成し、ガラス壁に突進。はね返されても群の最後に戻り、何度も挑戦しようとしているように見えます。
ドイツは統一される過程で、ベルリンの壁はあっけなく消滅したものの、東西ドイツの間にはさまざまな障壁がありました。作品のガラス壁は、ベルリンの壁とほぼ同じ高さ。「見えない壁」を壊す事の困難さを表すとともに、挑戦を続ける意義も示しています。
《壁撞き》展覧会名の「帰去来」は、中国の詩人・陶淵明の代表作からの引用で、官職を辞して田園に生きる決意を表したこの詩に、久しぶりに日本という原点に戻る(蔡は1986年から95年に日本に滞在し、筑波大学で学んでいました)蔡の想いが込められています。哲学的な作品を平易な言葉で解説してくれる映像作品も、展示室で上映されています(蔡は日本語が話せます)。ぜひ時間をとってご覧ください
年齢を感じさせない引き締まった身体で世界中を飛びまわる、超売れっ子アーティスト。横浜での制作期間中も、ホテルのジムでのトレーニングを欠かさなかったそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年7月15日 ] | | 蔡國強 帰去来
蔡國強 (著), 横浜美術館 (監修), モ・クシュラ株式会社 (編集) モ*クシュラ株式会社 ¥ 2,799 |
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