小倉遊亀(おぐらゆき:1895-2000)とともに女性画家の最長老格として、長く活躍した片岡球子。本展は生誕110年を記念した企画展です。
球子の初期の代表作が、1930年の院展入選作《枇杷》。ただ、球子は展覧会の入選には苦戦し、自ら「落選の神様」と称していた事もあります。
その球子が、1942年に大観賞を受賞したのが《祈禱の僧》。表情の捉え方は後の作品にも繋がります。
必ずしも高い評価ばかりではなかった球子に対し、小林古径が「あなたの絵はゲテモノだが、ゲテモノと本物は紙一重。あなたの絵を絶対に変えてはいけない」と激励した事は、有名なエピソードです。
少女を描いた《曼珠沙華》は、1936年の作品。個人蔵という事もあって、これまでほとんど公開されませんでした。本展は代表作だけでなく「埋もれていた名作」が紹介されている事も特徴的です。
第一章「個性との闘い ─ 初期作品」球子の画業で大きな転機になった作品が、1953年の《カンナ》です。
フォルムを大きくとらえるようになり、色使いも鮮やかに、60年代前半になると画材にボンドなども用いるようになり、さらに表現は迫力を増していきます。
海や山など具体的な風景をモチーフにしながらも、海岸の岩は木塊のようで、富士は極彩色で塗り分け。激しくデフォルメされた造形が、画面を埋め尽くしていきます。
第二章「対象の観察と個性の発露 ─ 身近な人物、風景」球子の代表的なシリーズが、1966年から描きはじめた〈面構〉(つらがまえ)。歴史上の人物を題材に、まるで目の前にいるかのように表現していきます。
筆使いは伸びやかで自由奔放に思えますが、実は入念に準備をしています。人物の事績は書物で調べ、肖像画や彫像があれば写し、伝統芸能の場合は実際の舞台を取材するなど、徹底的に調査。人物だけでなく装束の文様にも興味があったようで、作品からは熱心な研究の跡が伺えます。
第三章「羽ばたく想像の翼 ─ 物語、歴史上の人物」評価が定まり 、功成り名遂げた後も球子の挑戦は続きます。
1980年代初頭、80歳を目前に始めた新たなテーマは「裸婦」。美術教育の基礎ともいえる裸婦に、この時期から改めて取り組み出したのです。
さまざまなポーズの裸婦を、画面に浮かぶように描いた球子。100歳まで、多くの裸婦を描きました。
球子は急性心不全のため、2008年に103歳で死去。対象に真摯に向き合った長い長い画業は、会場最後の年表でもご確認いただけます。
第四章「絵画制作の根本への挑戦 ─ 裸婦」会場にはスケッチ類も紹介されています。初期のスケッチは対象を忠実にとらえようとしていますが、後期になるとスケッチの段階から荒々しい筆跡に。創作の変遷もお楽しみ下さい。
東京展は5月17日(日)まで。その後は
愛知県美術館に巡回(6月12日~7月26日)します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月6日 ]