デミタスのコレクションでは日本の第一人者である、東京在住の鈴木康裕(やすひろ)・登美子(とみこ)夫妻。現在では500点以上のデミタスを所有していますが、なんと康裕さんは一般のサラリーマン。月給から1ヶ月に1点ずつコツコツと購入し続け、ここまでの規模になりました。
会場には18世紀から20世紀初頭のセーブルやマイセン、KPMベルリン、ミントン、ロイヤルウースター、ロイヤルクラウンダービー、コールポートなど、ヨーロッパの名窯で作られた作品を中心に、宝石のように美しいデミタスがずらり。ひとつひとつは小ぶりですが、総数は参考出品も含めて約320点と、見ごたえたっぷりです。
会場入口から
いつもは国宝《卯花墻》などが紹介される展示室2にあるのは、本展の目玉作品ロイヤルウースター《上絵金彩ジュール透彫カップ&ソーサー》。
細かな透かし彫りがカップ全体に施されており、とても陶磁器とは思えない作品です(そのため、もちろん実用品ではありません)。
手掛けたのは、ジョージ・オーエン(1845-1917)。オーエンは技法を誰にも明かさなかったため、他に作れる人は誰もいませんでした。
ロイヤルウースター《上絵金彩ジュール透彫カップ&ソーサー》 / ロイヤルウースター《上絵金彩ジュール透彫ポット》
先ほどの作品もそうですが、鈴木夫妻のコレクションで最も数が多いのがロイヤルウースター。イギリス第一の名窯といわれ、この窯の歴史はイギリス磁器の発達史そのものと言われます。
会場に並ぶロイヤルウースターのデミタスは40点以上。果物や花々、鳥などを美しく描いた作品が目にとまりますが、中にはかなりユニークなデミタスも。《上絵ジャガイモと葉形カップ&ソーサー》はジャガイモそのもので、芽が出ているところまで表現されています。担当の小林祐子学芸員イチオシの作品です。
ロイヤルウースターのデミタス
鈴木夫妻のデミタスコレクションの中には、日本で作られたものも。19世紀中頃の万国博覧会から日本の工芸品に注目が集まり、輸出向けの陶磁器制作が加速。このあたりの経緯は、昨年の「超絶技巧!明治工芸の粋」展でも紹介されました。
薩摩、京都、九谷など、さまざまな産地でカップ&ソーサーが作られています。
日本製のデミタス
鈴木夫妻は昭和42年の結婚当初、共通する趣味がなかったため、お互いに好きだったコーヒーにちなんでデミタスを集め始めたのが、コレクションのきっかけ。当時デミタスはコーヒーカップの三分の一から半値程度で、あまり無理せずに収集する事ができたそうです。
「新しい作品を手に入れる時は、必ずふたりで相談してから購入する」という微笑ましいエピソードもあるお二人。まさに和製ハーブアンドドロシー(自分の給料で買える範囲でコツコツと現代美術を集め、世界的コレクターになった米国の夫妻)といえそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年2月6日 ]