八王子で生まれ育った清原啓子。高校卒業後、美学校を経て多摩美術大学に進学、深澤幸雄に師事し銅版画を学びました。
清原が銅版画の道を選んだ70年代は、コンセプチュアル・アートなど前衛芸術の全盛期。「絵画は死んだ」と言われる時代にあって、清原は抗うように「ニードル(銅版画を作るための針状の道具)一本で、万余の点を打ち、万余の線を引き続け」(深澤幸雄による清原評)、幻想的な作品に打ち込みました。
故郷である八王子市夢美術館は、2004年に清原の作品を収蔵。本展は書籍「銅版画家 清原啓子作品集」の出版を記念して企画されたもので、収蔵品以外の作品も展示し、未完の作品を含む全銅版画が紹介されています。
会場入口から
その作品は、胸に迫ってくる圧倒的な密度。まるで夢の中のような幻視的なイメージを、驚くべき丹念さで原版に刻み込んでいきます。
動画でご紹介する《孤島》は、最後の作品と考えられる一点。清原は一度作品を仕上げて展覧会で発表した後でも版に手を加えることがあり、この《孤島》も発表から何度も修正が施されています。
《孤島》は銅板原版も展示。繊細な作業の痕跡も見る事ができます。
清原啓子《孤島》
清原は版画を制作する際に、かなり精密な素描の下絵を描いています。
展覧会では所在が確認できた全ての素描を紹介。比較できるように、素描と銅版画が並べて展示されています。
素描と銅版画を並べて展示
その作風からもイメージされるように、清原は幻視的・神秘的な文学者、思想家を好んでいました。
彼女が名を挙げた作家は久生十蘭、夢野久作、埴谷雄高、海外ではボードレール、ニーチェ、バシュラールら。画家たちもカロ、メリヨン、ブレダン、ボッシュ、モロー、ルドン、そして若冲などを敬愛していました。
会場では清原が使っていた道具類とともに、書棚も紹介。書架にはその志向が伺える書物が並びます。
ポートレートから、書棚まで
清原は1982年に日本版画協会賞を受賞。翌年開催した初個展は大きな賞賛を集め、新作を含んだ1987年7月の個展ではさらに注目を集めましたが、その月の25日に心不全で急逝。まだ31歳の若さでした。
清原が版画家としての活動期間は学生時代を含めても10年にも足らず、生涯に30点の作品しか残していませんが、繊細かつ濃密な作品は根強い人気があります。今回は創作の全容を一望できる好機ですが、会期は僅か2週間です(月曜日は休館)。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月30日 ]
| | 銅版画家 清原啓子作品集
八王子市夢美術館 (監修) 阿部出版 ¥ 3,240
ISBN978-4-87242-427-0 2014年11月発行
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