英国の芸術振興を進め、芸術家の専門教育のために設立されたロイヤル・アカデミー。しばしば「王立芸術院」と訳されますが、英国王家や政府から財政的な支援を受けているわけではなく、年次展覧会の入場券や図録の販売などで運営しています。
ロイヤル・アカデミーの会員になるためには、まず会員の推挙を受けて、自身の渾身の力作をロイヤル・アカデミーに委託。提出された作品は「ディプロマ・ワーク」と呼ばれ、評議会で承認されると、会員として氏名の後ろに「RA」の頭文字を付ける資格が与えられます。
本展は創立当時から20世紀初頭まで、約150年間のロイヤル・アカデミーの作品を紹介する企画。創設者であるジョージ3世の胸像から始まり、奥に進むとアカデミーの初代会長であるジョシュア・レノルズによる《セオリー》が登場します。ロイヤル・アカデミーのライブラリーの天上画として描いた女性像で、ルネサンス様式の巫女。「セオリーは真の本質についての知識である」と記した巻物を手に持っています。
ジョシュア・レノルズ《セオリー》ジョン・エヴァレット・ミレイは、史上最年少の11歳でロイヤル・アカデミー・スクールに入学。「チャイルド」というあだ名をつけられました。後にアカデミーの教育方針に反発してラファエル前派を結成したミレイですが、最晩年には会長にも就任しています(ただ、就任の半年後に死去しました)。
《ベラスケスの思い出》は、スペイン王女マリア・マルガリータを描いたディエゴ・ベラスケスの《女官たち(ラス・メニーナス) 》から着想した作品。衣服は荒い筆使いで、対照的に表情は繊細なタッチで描かれています。この作品は1868年に寄託されたディプロマ・ワークで、額の下部には「DIPLOMA WORK」の銘板があります。
ジョン・エヴァレット・ミレイ《ベラスケスの思い出》ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスは、1871年にロイヤル・アカデミー・スクールに入学。銘板こそありませんが、《人魚》もディプロマ作品です。髪をすく美しい人魚は、人を誘惑する妖しい表情です。
ウォーターハウスがアカデミーの会員になった1901年は、ちょうど夏目漱石が英国に留学していた時期でした。漱石はウォーターハウスがお気に入りで、長編小説「三四郎」にウォーターハウスを意識したと思われる人魚が出てきます。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《人魚》ラファエル前派展、
ターナー展など、英国絵画の展覧会は近年も数多く開かれていますが、特定の流派や人物に特化する場合が多く、英国美術をトータルで紹介するのは貴重な機会です。
東京富士美術館では常設展示室でもロイヤル・アカデミー関連の作品を紹介していますので、あわせてお楽しみください。
なお本展は全国巡回展。東京展の後は静岡展(2014年12月6日~2015年1月25日:
静岡市美術館)、愛知展(2015年2月3日~4月5日:
愛知県美術館)が開催されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月16日 ]