ピエール・シャローは1883年生まれ。正規の建築教育を受けず、就職した家具会社でデザインや製図を学んだ異色の経歴の持ち主です。1919年に独立してからは家具デザインやインテリアデザインを手がけ、芸術家やモダニスムの建築家との交流の中で次第に建築へと仕事の領域を広げていくようになります。
展覧会は、シャローの活動の本質を象徴する17のトピックで構成されています。家具のデザイン画や製図など、ポンピドゥーセンター所蔵の貴重な資料を中心に、シャローの足跡を追っていきます。
会場デザインはみかんぐみのマニュエル・タルディッツさん。シャローのエレガンスな作品を十分に理解できる、同じフランス出身の建築家ということで起用されました。会場を貫く黒い帯状のラインの上に、シャローの家具が並ぶ会場プランにも注目です。
図面とともに実物の家具も数多く展示されています。ハイスツールはトゥール市のホテル、グラン・オテル・ド・トゥールのためにデザインされたもの。分厚い木と細い鋼管でシンプルに組み合わせていますが、当時流行したモダニスムの枠だけに収まらないシャローのこだわりを見ることができます。
グラン・オテル・ド・トゥールのスツールシャローの活動に欠かせない人物の一人が金物職人のルイ・タルベでした。シャローのアイディアを実現させる技術の提案や実際の金属加工など、タルベは大きな役割を果たしました。
T字型と門型の金属プレートと、黒い木の数枚の天板で構成された机もタルベに作らせたもの。最初は自分の事務所の家具として作りましたが、顧客の注文に合わせて、天板の数や棚のバリエーションを変えることができました。その数、なんと約3年間で25種に及びます。実物の机のほか、他のバリエーションのデザイン画や図面なども展示されていますので、見比べてみてください。
バリエーション豊かなデスク。実物展示はロベール・マレ=ステヴァンスモデルのデスク。シャローの代表作で展覧会タイトルでもあるガラスの家は、パリのサンジェルマン地区にある18世紀の古いアパルトマンを改装した建物。シャローと長年親交のあった医師のダルザス夫妻のための住宅兼診療所です。
アパルトマンを買い取ったものの、上の階の住人が立ち退きを拒否したため、シャローは1階と2階だけを壊し、ガラスでできた近代的な家をそこに新しく作りました。現代ではリノベーション、リフォームという言葉がよく聞かれますが、ガラスの家はリノベーション住宅のさきがけといえます。
ガラスの家の模型や、紹介記事など。シャローの主な活動時期は短く、第一次大戦後から1932年までの約10年。二つの大戦に挟まれた短くも濃密で革新的な活動は、建築界にやってきた彗星のようでした。第2次世界大戦が迫る1940年に渡米。1950年にその生涯を閉じます。
20世紀初頭は経済や産業の在り方が大きく変わる激動の時代。社会の変化は芸術にも大きな影響を与えました。シャローはその変化の時代のただなかで、近代生活に適合した美しい建築を提案したのです。
現在もガラスの家はパリで丁寧に保存され、受け継がれています。内部の見学は難しいので、この展覧会はとても貴重。建築やデザイン好きの方には見逃せない展覧会です。国内巡回はありませんのでご注意を。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2014年7月25日 ]■建築家ピエール・シャローとガラスの家 に関するツイート