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    レポート
    ヴァロットン展━冷たい炎の画家
    三菱一号館美術館 | 東京都
    不安を覗き見る、冷淡な視点
    スイス生まれでパリで活躍したフェリクス・ヴァロットン(1865~1925)。日本での知名度はとても低く、世界的にも注目されるようになったのは最近のことです。その画業を総覧する回顧展がパリ・オランダを巡回し、東京の三菱一号館美術館でいよいよ開幕です。
    《トルコ風呂》1907年 ジュネーヴ美術・歴史博物館
    左から《5人の画家》1902-3年 ヴィンタートゥール美術館、《20歳の自画像》1885年 ローザンヌ州立美術館
    左《月の光》1894年頃 オルセー美術館、上から《夜》1895年 三菱一号館美術館、《美しい夕暮れ》1892年 三菱一号館美術館
    《貞淑なシュザンヌ》1922年 ローザンヌ州立美術館
    左から《カーニュの俯瞰的眺望》1921年 ローザンヌ州立美術館、《アレクサンドル・ベルネーム夫人》1902年 オルセー美術館
    第4章「黒い染みが生む悲痛な激しさ」より、三菱一号館美術館の版画コレクション。パリの現代生活を風刺的な視点で描いています
    左から《赤い絨毯に横たわる裸婦》1909年 プティ・パレ美術館、《オウムと女性》1909-13年 個人蔵
    《引き裂かれるオルフェウス》1914年 ジュネーヴ美術・歴史博物館
    三菱一号館のコレクション展示室では、ヴァロットンの挿絵を用いた出版物も展示されています
    国内初となる、ヴァロットンの本格的な回顧展。全7章で、多様な画業を紹介します。

     1.線の純粋さと理想主義
     2.平坦な空間表現
     3.抑圧と嘘
     4、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」
     5.冷たいエロティシズム
     6.マティエールの豊かさ
     7.神話と戦争

    ヴァロットンは1865年にスイスで生まれ、16歳でパリに出ます。当時は印象派や、フォーヴィスムなどの色彩表現が流行していた時代。ヴァロットンはデッサンを重視した絵を好み、初期は肖像画を多く描きます。


    1.線の純粋さと理想主義 会場風景

    ヴァロットンの作品には、ナビ派の輪郭線と平坦な色使い、さらに浮世絵や写真から影響を受けた大胆なフレーミングが加わります。

    代表作の「ボール」をよく見ると、手前の少女と木陰に佇む女性二人には視線のずれが。2枚の写真を参考に描いたため生じたずれですが、その違和感や不気味さにもひきつけられる魅力的な作品です。


    2.平坦な空間表現 会場風景

    ヴァロットンは木版画も多く手がけました。本展に出品された木版画はすべて三菱一号館美術館の所蔵。貴重なコレクションです。

    アンティミテとは「親密さ」の意味で、男女のただならぬ関係を描く連作。スイスの厳格なプロテスタントの家庭で育ったヴァロットンは、パリの男女の駆け引きや社会の動きを、皮肉に満ちた視点で鋭くとらえています。

    アンティミテ10作をコラージュした1枚は、版の破棄証明としての作品ですが、そのデザインの切れが感じられます。


    《アンティミテ》1898年 三菱一号館美術館

    展覧会の最後は、戦争の影響を受けた作品が並びます。1914年から1919年にかけて、フランスは第一次世界大戦の戦禍に。ヴァロットンは従軍を志願しますが、当時すでに50歳。年齢制限で入隊を拒否されます。

    従軍画家として戦地に赴いた後に描いた「ヴェルダン、下絵」はサーチライトが交錯し、戦火と噴煙が立ち上る戦場の光景。フランス東部にあるヴェルダンではドイツ軍とフランス軍が激しく戦い、両軍合わせて70万人以上の死傷者を出しました。

    ヴァロットンは人や重火器など戦闘そのものではなく、激戦地跡を描くことで「戦争の脅威」を表現しました。


    7.神話と戦争 会場風景、《これが戦争だ》1916年 三菱一号館美術館

    近年スポットが当たり始めたヴァロットンの作品を、これだけまとめて見られる機会はとても貴重。パリでの展覧会は異例の31万人を動員しました。

    三菱一号館美術館の公式サイトでは、直木賞作家の角田光代さんによるヴァロットン作品にインスパイアされた小説が公開中。木版画を活かしたバッグなど、ミュージアムグッズも充実しています。

    ぞくぞくするような背徳感すら漂う、魅惑のヴァロットン作品。残念ながら国内巡回はありません。三菱一号館美術館の落ち着いた雰囲気の中で、ぜひご堪能ください。
    [ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2014年6月13日 ]

    VALLOTTON―フェリックス・ヴァロットン版画集 [単行本]

    三菱一号館美術館 (監修)

    阿部出版
    ¥ 2,160

    料金当日一般 1,600円
     → チケットのお求めはお出かけ前にicon


    ■ヴァロットン に関するツイート


     
    会場
    会期
    2014年6月14日(土)~2014年9月23日(火)
    会期終了
    開館時間
    10時~18時 / 金(祝日を除く)のみ10時~20時
    ※10/5より開館時間が変更になりました。
    ※いずれも最終入館は閉館30分前まで
    休館日
    月曜日休館
    住所
    東京都千代田区丸の内2-6-2
    電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト http://mimt.jp/vallotton/
    料金
    一般 1,600円/高校生 1,000円/小中学生 800円
    ※チケット窓口にて障がい者手帳をご提示下さいますと、当日券観覧料の半額でチケットをご購入頂けます。 また、介添人の方1名まで、ご本人同様にチケットを半額でご購入頂けます。
    展覧会詳細 「ヴァロットン展━冷たい炎の画家」 詳細情報
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