米国・フーリア美術館蔵《品川の月》、米国・ワズワース・アセーニアム美術館蔵《吉原の花》、そして《深川の雪》。江戸を代表する遊興の場を「雪月花」で描いた喜多川歌麿の三部作ですが、1948(昭和23)年に銀座の松坂屋で3日間だけ展示されたのを最後に、長らく所在不明になっていました。
伝えられていた資料は、当時のモノクロームの写真のみ。作品を鑑定した浮世絵研究家の浅野秀剛氏(大和文華館館長)も「生きているうちに見られるとは思わなかった」という幻の大作が、ついに一般公開されました。
まず驚かされるのが、その大きさです。《品川の月》は147.0cm×319.0cm、《吉原の花》も186.7cm×256.9cmと巨大な作品ですが、《深川の雪》は198.8cm×341.1cmもあります。横に長い《品川の月》、縦が長い《吉原の花》と比べて、縦も横も長い《深川の雪》。岡田美術館の広い展示室の中でも、その存在感は圧倒的です。
注目の《深川の雪》は、2階で展示されています舞台は深川の料亭の二階座敷。幕府公認の遊郭があった吉原、飯盛女のサービスが黙認されていた品川、そして深川は粋な芸者町と、三カ所とも江戸を代表する遊興の場です。
描かれている人物は27名。成人男性が一人も描かれていないのも、三部作に共通しています。
画面の中央には、手鏡で化粧を直したり、柱にもたれかかったりと、艶やかな姿態の女性をS字に配置。右側に描かれた火鉢にあたる女性たちの姿で、松に積もった雪とともに、季節が冬である事が分かります。
庭を挟んで向かい側には、拳の遊びに興じる女性。三味線を弾く芸者もいて、座敷は賑やかそうです。前掛けをした女中の二人は愛嬌のある顔立ちで、芸者と差を付けた表現です。
喜多川歌麿《深川の雪》三部作は、栃木の豪商「釜伊(かまい)」こと釜屋善野伊兵衛(かまやぜんのいへえ)が歌麿に依頼して描かせたと伝わりますが、サイズが揃っていない事に加え、描かれた時期も異なります(月・花・雪、の順)。また、三作ともに落款がありません。
なぜ地方の商人が、売れっ子絵師に豪華な三部作を注文できたのか。そもそも、これほど大きな作品はどこに掛けられたのか。解明されていない謎も多い《深川の雪》ですが、まずはご覧いただいてから。ぜひ天気が良い日に、足湯とともにお楽しみください(岡田美術館は建物に面して足湯が併設されています)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月3日 ]