川瀬巴水は現在の新橋で生まれましたが、大田区には縁が深い画家です。大正15(1926)年には今の中央四丁目に、昭和5(1930)年からは南馬込三丁目に居住。戦時中に疎開しますが、昭和23(1948)年から昭和32(1957)年に亡くなるまで、上池台二丁目に住んでいました。
その縁もあって、多数の巴水作品を所蔵している大田区。本展では「昭和の広重」と称された木版風景画の名品を、年代別に3期に分けて紹介しています。
会場入口から取材時は中期の「昭和初期から10年代の作品」が開催中。関東大震災で自宅が被災した不幸を乗り越え、精力的に製作を続けていた時期です。
巴水は日本中を旅行してスケッチをし、次々に版画を手掛けていきました。スケッチと作品が並べられた展示もあり、創作の過程を楽しむことができます。
見事な風景画が並ぶ会場には、富士山の世界遺産入りを記念した一角も設けられました。歌川広重は美しい富士山の浮世絵を数多く描きましたが、「昭和の広重」も負けていません。
町並みの向こうに、松林の間から、河口湖とあわせて…。見事な構図で四季折々の富士を切り取ります。
富士山の特集コーナー巴水の作品は多くが渡邊木版画店から出版されましたが、専属絵師ではなかったため、他の版元からの出版作品もあります。
確実に売れるために、次々に制作の依頼が入る売れっ子だった巴水。旅行先で何カ所か写生を行い、掛け持ちしていた複数の版元のための作品を制作したこともありました。
会場には、同じ地点から左右を見たような作品も展示されています。効率を重視しながらも、どちらの作品も決して手を抜かず、高いクオリティを保った巴水。この律儀な性格も、多くの版元に愛された理由のひとつです。
近隣地で描かれた、版元違いの作品大田区立郷土博物館「川瀬巴水 ― 生誕130年記念 ―」の中期「昭和初期から10年代の作品」は、2014年1月19日(日)まで。展示替え休館を挟んだ後、後期の「昭和20年代、及び晩年の作品」は2014年1月25日(土)から3月2日(日)までです。
川瀬巴水展は千葉市美術館でも開催中。千葉市美術館では、併設展で巴水が影響を受けた周辺の画家の作品も紹介されています。あわせてお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年12月4日 ] | | 川瀬巴水作品集
川瀬 巴水 (著), 清水 久男 (著) 東京美術 ¥ 3,150 |