アンドレアス・グルスキーという名前をご存知ない方も、ポスターやチラシをみて驚かれたことと思います。一体何をどう撮影したのかわからない、新しい写真の世界。日本ではもちろん、アジアでも初めてとなる個展です。
フランクフルト 2007アンドレアス・グルスキー氏は1955年ドイツ生まれ、祖父はプロの写真家、父も広告写真家という写真一家で育ちます。家には洗練されたデザインの家具があり、アーティストとしての素地はそこで形成されました。
大学を卒業後、デュッセルドルフの芸術アカデミーでベルント・ベッヒャーに師事、他もいくつかの写真学校に通い、ミハイル・シュミットなどから写真技術を学びました。
グルスキー氏は、自分の育った環境とベッヒャーの教えが自分の作品に大きな影響を与えたと語っています。
ピョンヤンⅤ 2007白い壁の会場は明るく、かなり大きな作品が並びます。大きなものでは横5mを超えるものも。被写体は、広大な自然から都市の風景までさまざま。時間を切り取ったような静寂を感じますが、細部に目を凝らすと、人々の営みの痕跡や、自然が作り出したダイナミックな造形美が、大きな写真からさらに広がってきます。
無題ⅩⅤ 2008撮影方法が気になる作品が数多くありますが、実は作品はデジタルで加工したものばかり。本展のメインビジュアルになっている《カミオカンデ》も、撮影した際は下に水が張られていませんでしたが、デジタルで加工。右下の二人の人物も、デジタル加工で加えられたものです。
綿密なデジタル加工を繰り返しながら、グルスキー氏ならではの世界観を作り上げているのです。
カミオカンデ 2007今回、会場のキュレーションはすべてグルスキー氏が担当。会場全体をインスタレーションとしてとらえることも出来ます。
図録や、展示目録に記載された作品の順番も、会場の展示順とは一致していません。キャプションも写真のすぐ側にはないため、作品が何を写したものなのかすぐにはわかりません。離れて見て、近づいて細部まで見て、クイズを愉しむように見てみるのも面白いかもしれません。
内覧会に登場したグルスキー氏は、訪れた銀座や国立新美術館の風景で、新たな創作のインスピレーションを得たと語りました。今回も《カミオカンデ》や《東京証券取引所》といった日本で撮影された作品が出展されていますが、いつかまた、日本の風景がグルスキー氏の新しい視点で表現されるのを期待したいと思います。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2013年7月2日 ]