第1回印象派展がフランスで開催されたのは、1874年。見たままの光を再現するために、絵の具を混ぜずに粗いタッチで描く彼らの技法は、当時の常識とはあまりにも違うため、ジャーナリズムには酷評されました。ただ、その革命的な考え方は次第に注目を集め、世界各国に広がっていったのはご存知のとおりです。
フランスと国境を接し、歴史的・文化的にもフランスと密接な関係があるベルギーにも、もちろん印象派は伝播。ベルギーの印象派を代表する存在が、このエミール・クラウスです。
会場前半の3階では、まずクラウスを取りまく印象派の作品が紹介されます。ベルギーからはアンナ・ボッホ、ジェニー・モンティニーなど、そしてフランスのピサロ、モネ、シニャック…。印象派と、それに続く作品が並びます。
会場(3階)自身の作品を「ルミニスム」(光輝主義)と呼んだクラウス。1900年前後には印象派だけでなく象徴主義、表現主義の画家にも大きな影響を与える存在になりました。
展覧会メインビジュアルでもある《野の少女たち》や《昼休み》は、会場3階で展示。逆光の屋外で人物を描くのは、クラウスの十八番といえるテーマです。
エミール・クラウス《野の少女たち》と、エミール・クラウス《昼休み》3階から2階に進む動線の、東京ステーションギャラリー。明るくモダンなイメージの3階と異なり、煉瓦壁が残る重厚な2階では、柔らかな光を丹念に描くクラウスの作品が映えます。
図録を見ると、実はここが第1章。あえて2章(ベルギーの印象派)と3章(フランスの印象派)を先に見せ、1章(エミール・クラウスのルミニスム)と4章(ベルギーの印象派 日本での受容)に進むのは、会場の特性を活かしたプランでしょうか。なかなか効果的です。
会場(2階)会場の最後には二人の日本人画家、児島虎次郎と太田喜二郎の作品が展示されています。ともに黒田清輝の門下ですが、フランスではなくベルギーに留学。エミール・クラウスに師事し、確かな技術を身につけて帰国しました。
日本と印象派の関わりで考えると、作品だけなら1910年代初頭にはルノワール作品が入っていますが、「印象派を学んだ画家」という事ならこの二人がはじめて。日本に伝わった印象派はフランスからでなくベルギーからだった、とも言えるのです。
クラウスからも高い評価を得た、児島虎次郎《和服を着たベルギーの少女》「日本との関わり」という点だけでも、もっと注目されていい画家であるエミール・クラウス。ベルギー近代絵画の所蔵では日本随一といえる
姫路市立美術館から巡回したきた本展は、
石川県立美術館(2013年7月26日~8月25日)、
碧南市藤井達吉現代美術館(2013年9月14日~10月20日)にまわります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年6月13日 ] |  | 魅惑のベルギー美術
冨田 章 (監修)、姫路市立美術館 (編集) 神戸新聞総合出版センター ¥ 1,890 |