印象的な「尊厳の芸術」というタイトル。原題は「The Art of Gaman」(アート・オブ・ガマン)、米国で開かれた展覧会です。
米国での展覧会を企画したのは、日系3世のデルフィン・ヒラスナさんです。ヒラスナさんは母親の遺品から強制収容所で作られた木製の鳥型ブローチを見つけたことをきっかけに、同様の作品を集めて展覧会を開催。これは大きな反響を呼び、全米を巡回することとなりました。
評判を聞いたNHKは、2010年11月の「クローズアップ現代」で同展を紹介。放送後に日本での開催を求める声が多く寄せられ、今回の展覧会につながりました。
粗末な材料で作った「生活に必要なもの」展覧会は「生活に必要なもの」「生活を彩るもの」「生活の記録」「故国の文化」の4章構成です。文句も言えない、我慢の中から生まれた品々。多くは芸術を学んだことがない人々によって作られたものです。
収容所の住宅は、粗末なバラック。最初は必要最低限の家具と食事しか保障されておらず、人々は乏しい材料と道具で机や椅子、籠、棚などを作りました。
杖、椅子、テーブル強制収容所は徐々に整備され、作業所や教育施設なども整っていったものの、鉄条網の外に出ることは原則として許されず、人々は単調な生活を強いられていました。
そんな中で手作業でコツコツと作られたのが、置物や遊び道具など。展覧会のきっかけとなった鳥型ブローチもそのひとつです。豊かな想像力で、粗末な材料からも見事な作品を作り上げています。
木彫の数々会場の終盤には仏壇も展示されています。収容者は、小さなものを除いて自宅の仏壇を持参することができませんでした。
シンタロウ・オオニシは、自ら丸太をくり抜いて仏壇を制作。扉も開閉できるこの本核的な仏壇に、彼の家族は朝夕、手を合わせていました。
第4章「故国の文化」理不尽な収容生活から生まれた、ものを言わぬ作品群。厳しい環境の中でも誇りを忘れず、懸命に暮らしに向き合う熱い心が伝わってくるようです。
著名な作品を集めた大規模美術展とは対極の展覧会ですが、「人がものを作る」という活動の原点を感じることができる好企画。東京展の後に福島、仙台、沖縄、広島に巡回します。(取材:2012年11月6日)