時おり数点の作品が来日するものの、まとまった個展としてはわが国で初めてとなるシャルダン展。監修はルーヴル美術館名誉館長のピエール・ローザンベール氏が務めました。
ローザンベール氏は、シャルダン研究の世界的権威。シャルダン没後200年にあたる1979年にパリで開催してアメリカに巡回した大展覧会は、後のシャルダンの評価を決定付けました。
「シャルダン」と聞くと消臭芳香剤をイメージする人がいるかもしれませんが、間違いではないので大丈夫。1971年にエステー化学工業(現エステー)が発売したシャルダンは、画家のシャルダンから命名されたのです(ただしスペルは違います)。当時一般的でなかった香りの新製品を発売するにあたり、安らぎを感じさせるシャルダンの絵にあやかりました。
確かに、描かれているものはとても静かな風景。「静寂の巨匠」という展覧会のサブタイトルがしっくりとはまります。
シャルダンは29歳でアカデミーに認められ、静物画や風俗画の名手として称えられました。晩年には息子が自殺するなどいくつかの不幸があったものの、比較的裕福な生涯だったといえます。
没後は急速に忘れられていったシャルダンに再び注目が集まったのは、19世紀になってから。フェルメールを再評価した評論家のトレ=ビュルガーが、シャルダンにも着目したのです。
その評価は徐々に高まり、ミレー、マネ、セザンヌなど19世紀の多くの画家がその影響を受けました。
展覧会のメインビジュアルとして大きく使われているのが《木いちごの籠》。代表作の《羽根を持つ少女》とともに個人像のため通常は非公開ですが、今回は2点とも初来日しました。
籠にピラミッド状に積まれた木いちご、手前にはカーネーションと水の入ったコップ、右側には桃とさくらんぼ。静物画から風俗画を経て、また静物画に回帰した時代の作品で、晩年の最高傑作と言われています。
《木いちごの籠》などちなみにもう1点の傑作《羽根を持つ少女》の方は、取材での撮影はおろか、チラシや公式サイトでの使用も禁止。まさに会場で見るしかないため「心のシャッターを押して」見てほしい、との説明がありました。
会期が来年1月6日(日)までと、長めなのも嬉しい限り。平日の木・金曜日対象の“アフター6”割引もあるので、デートにもオススメです。(取材:2012年9月7日)