植木金矢さんは大正10年生まれ。子どもの頃から挿絵画家に憧れていましたが、長男だったためにその夢をかなえることは容易ではありませんでした。
鋳物工場で働いた後に出征、中国で終戦を迎え、捕虜生活の後に昭和21年に復員しました。ちなみに、出征した世代の漫画家といえば水木しげるさんが知られていますが、植木さんは水木さんより1歳年長です。
1階の展示。大ヒットした「風雲鞍馬秘帖」など挿絵画家の道を諦められなかった植木さん。昭和25年ごろに出版社めぐりをしたところ学芸出版に採用され、挿絵画家としてデビューします。その絵は「痛快ブック」の編集長の目にとまり、チャンバラ時代活劇「風雲鞍馬秘帖」を発表。一躍大ヒット漫画家となりました。
2階の展示。植木金矢の忠臣蔵の世界。実は植木金矢さんは、美術学校や絵の先生に師事したことは一度もなく、全て独学です。アラカンこと嵐寛寿郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵ら、銀幕の時代劇スターの似顔絵で物語を描いた植木さん。臨場感あふれる立ち回りは、綿密なデッサンの積み重ねによるものでしょう。武士や江戸の娘を描いたデッサン帖が目をひきます。
デッサン1966年には青年劇画の世界へも進出。人の世の無情と不条理を描いていますが、作品はあくまでも正義を追求したものばかり。描かれるのは豪快な活劇ですが、ご本人は誠実で真面目なお人柄。作風にも反映されているようです。
青年劇画への進出近年は日本画にも挑戦、こちらも独学です。さらに、「このために生かされているのと感じた」という使命感から原爆の絵画を手がけるなど、さらに活動の場を広げています。劇画も2004年から再び描きはじめし、現在でも年一回程のペースで新作を発表し続けています。
まさに「伝説の劇画師」と呼ぶにふさわしい存在。会場には当時を懐かしむ世代のほか若い世代も多く来ているそうで、関心は年代を超えて広がっています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2012年1月24日 ]