日本美術ビギナーでも分かりやすい解説で好評の「はじめての古美術鑑賞」シリーズ。一昨年は「絵画の技法と表現」、昨年は「紙の装飾」が開催されました。
今回のテーマは漆器で、10章構成。1章の縄文時代の漆器以外は、ほぼ館蔵品による構成で、重要文化財も5点出品されています。早速、技法をご紹介していきましょう。
蒔絵(まきえ)は、漆で描いた部分に金粉などを蒔いて固着させる手法。日本独自の技で、接着剤としての漆の性質を利用しています。蒔絵については、展示室2でも掘り下げていきます。
螺鈿(らでん)は、夜光貝や鮑貝の貝片を文様の形に切って装飾に利用したもの。唐から日本に伝わりました。日本では蒔絵との併用が多く、螺鈿単体の作例は少ないです。
塗り重ねた漆を彫って文様を作るのが彫漆(ちょうしつ)。朱漆を彫ると堆朱(ついしゅ)、黒漆を彫ると堆黒(ついこく)です。
鎗金(そうきん)は、漆の面に細い刻線を描き、金箔を押し込む技法。金でなく色漆を埋めるのは填漆(てんしつ)ですが、日本ではこれを存星(ぞんせい)と呼びます。
蒟醬(きんま)は漆の器面に文様を線彫りし、色漆を充填し、硬化した後に研ぎ出す技法。今でもタイやミャンマーで見られます。
展示室1
第2展示室は、蒔絵の展開について。奈良時代以降、日本で独自の展開を見せた蒔絵。金粉をつくる技術の進歩によって蒔絵の技法も変化し、表現の幅も拡大。その美と技は、江戸時代に頂点に達しました。
あえて1点ご紹介するなら、独立ケースで展示されている《百草蒔絵薬箪笥》でしょうか。内外ともに見事な研出蒔絵に彩られていますが、圧巻は蓋裏の百草図。それぞれの植物の横に、蒔絵で薬草の名前が記されています。
文字の大きさは1ミリほどで、とても肉眼では無理。例のハリウッド俳優が愛用するルーペ式メガネをかけたくなります。
展示室2
いつものように会期中にトークショーやスライドレクチャーなど関連プログラムも開催されますが、ちょっと珍しい試みが、7/1の「蒔絵のハープをたのしむ」。漆芸家で人間国宝の室瀬和美氏が蒔絵と螺鈿を施したハープを、世界的に活躍するハープ奏者の吉野直子氏が演奏します。事前申込制で、根津美術館ミュージアムショップにて参加券を販売中。音楽と美術によるハーモニーをお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年5月23日 ]
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