白が基調のホワイエ。奥は世界最大級のワニといわれるマチカネワニの骨格標本
昭和モダニズムの名建築である東京中央郵便局の姿を残しながら、東京駅丸の内口に誕生したJPタワー。施設の2・3階には、東京大学と日本郵便が連携した新しい文化施設、JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク(以下 IMT)がオープンしました。
一直線の展示室は、郵便物の仕分けが行われていた場所
戦前に東京大学で使われていた什器を再利用した展示ケース
ギメ・ルーム開設記念展『驚異の小部屋』。仏リヨン市より寄贈された、エミール・ギメ(1836-1918)由来の什器で構成されている。
ケ・ブランリ・トウキョウ『純粋形態――アフリカ諸部族の貨幣』(2014年2月25日-2015年2月15日)展示風景。フランスのケ・ブランリ美術館から選りすぐりのアイテムが展示されている。
今後、レクチャー、セミナーなどIMTカレッジで活用される予定のACADEMIA
左から、インターメディアテクの西野嘉章館長と、構想段階から関わってプロジェクトを進めた東大総合研究博物館特任教授・株式会社丹青社の洪恒夫氏
レトロモダンの展示空間
真っ白なホワイエから展示室に進むと、一転して広がるのは重厚な空間。クラシックな展示ケースには浮かび上がるように標本が並び、奥には巨大なクジラやキリンの骨格。螺旋状の数理模型や、流体力学の模型など、多彩な展示物は芸術品のような趣です。
「サイエンスをどうやって興味深く見せるか、に知恵を絞りました」と言う、IMTの西野嘉章館長。展示空間のコンセプトは“レトロモダン”です。
「学術標本の展示は、美術品を並べる名品主義とは対極です。そこにデザインという付加価値をつけることで、ミュージアム本来の“驚きと感動に溢れた場所”をつくりたかったのです」
細長い空間に柱が林立する展示室は、もとは郵便物が仕分けされていた場所。むき出しのモルタルはそのまま見せ、床に貼られたテープの跡も残すなど、あえて補修は最小限にとどめています。
クラシカルな展示ケースは、東京大学で戦前から使われてきた什器を再利用。資源を有効活用すると同時に、東京大学が130余年にわたって蓄積してきた“知の財産”を公開するに相応しい、どっしりとした佇まいになりました。
社会的な意義としての“無料”
2層にわたるIMTの展示はかなり見ごたえがありますが、入館料は無料です。ミュージアムに慣れた人ほど、意外に思えるかもしれません。
「そもそも公立博物館は無料であるべきにも関わらず、例外が多いだけです。逆に “これほどの施設を無料で使えることの社会的な意義” が、IMTの大きな武器です。これで社会の支援を得たいと思っています。入館料収益に汲々とするのは、ミュージアム本来の姿ではありません。100円の入場料を1万人から集めるよりも、100万円の寄付を募る方法で進めたいのです」(西野館長)
東京駅に近接しているというIMTの立地。「交通の要衝であるため、この地には全国から多くの人が訪れることは、構想の段階からポイントとして考えられていました」(洪恒夫特任教授)
西野館長が特に期待しているのは、修学旅行の学生です。「電車を待っている修学旅行生を駅で座らせているのをよく見ますが、30分あったらIMTに来て欲しいと思っています。“本物の知”に触れた体験を故郷で話してもらい、IMTの存在が大きく広まっていく。それが理想的です」
施設の完成は、出発点
2013年3月に開館して、約1カ月。来館者の出足は好調すぎるほどといいますが「その慢心は逆に危険です」と西野館長は話します。「文化施設は、施設の完成がゴールではなく、そこが出発点。今からが本当のスタートなのです」
展示室をユニット単位で更新する、IMTカレッジではイベントや教育プログラムを行う・・・いくつもの構想が企画されています。現状に満足せず、恐れずに次のステップへと進みたいという西野館長。「常に創造的な活動の場として、“進化するミュージアム”を続けていきたい」と結びました。
(取材:2013年4月11日 写真・文:インターネットミュージアム)
Museography ©UMUT works 2013
IMTの館内
西野嘉章館長からのメッセージ